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改定、保育所保育指針・幼稚園教育要領を考える!

はじめに

 平成20年3月、新保育所保育指針並びに新幼稚園教育要領が告示され、同時に、新保育指針の解説書も通知された。これから1年間の周知期間を経て、施行は平成21年4月1日とされている。
ここでは、保育指針検討会や幼稚園教育要領の改訂に同時に携わってきた経験を踏まえ、新保育指針、新教育要領の意義や特徴的な内容、特徴とこれからの検討課題などについて論じてみたい。

淑徳大学総合福祉学部教授/日本子ども家庭総合研究所
                   子ども家庭政策研究担当部長  柏女 霊峰

 1.保育所保育指針改定、幼稚園教育要領の背景を考える

(1)子どもや子育て家庭を取り巻く環境の変化
第一に、地域におけるつながりの希薄化や人々の倫理観の劣化が、子ども虐待に代表される親子関係不全や子育ての孤立、子どもの育ちの課題などをもたらすなど、子育ち・子育ての環境は大きな変容をみせていることがあげられる。

(2)子ども家庭福祉施策の進展
施策の進展は大きく5点ある。まず、一番目には、平成15年の地域子育て支援サービスである子育て支援事業の法定化や平成17年度からの次世代育成支援地域行動計画におけるそれらのサービスの拡充があげられる。二番目に、平成15年から施行された保育士資格の法定化と保護者支援業務の規定があげられる。三番目に、平成18年の教育基本法改正による家庭教育や幼児期の教育の重視と、それを受けて実施された幼稚園の目的、目標の見直しやいわゆる子育て支援の努力義務化をともなう学校教育法の改正があげられる。四番目が、平成19年4月の特別支援教育に関する学校教育法などの改正である。そして、五番目に、認定こども園の制度化による幼稚園と保育所の制度的接近があげられる。

(3)保育所保育指針の告示化
第三に、保育所保育指針が厚生労働大臣の告示として、新たに生まれ変わることになったことがあげられる。新指針は、児童福祉施設最低基準第35条に基づく厚生労働大臣の告示として生まれ変わる。すなわち、新指針の内容は最低基準としての規範性を有するものとなるのである。新指針の告示とともに、最低基準第35条も、「保育所における保育は、養護及び教育を一体的に行うことをその特性とし、その内容については厚生労働大臣が、これを定める。」(施行は平成21年4月1日)と改正されることとなる。ようやく、保育所保育の内容の基準ができたこととなるのである。


2.新保育所保育指針の内容

(1)第1章 総則
まず、第1章総則では保育所保育の全体像が示され、保育所の役割や社会的責任、保育の原理、保育の構成、保育士に求められる専門性などがしっかりと記述されている。保育所は児童福祉施設であり、子どもの最善の利益やその福祉を増進することを重視する生活の場でなければならないとしている。これまでの「家庭養育の補完」との表現を改め、「家庭との緊密な連携」のもとに行うことを明確にしたことも大きな特徴である。また、「保護者に対する支援」を大きな役割の一つとしたこと、「保護者の意向」や「子どもの思い」を受け止めることの大切さを述べていること、保育士の力量を倫理、知識、技術、判断の4点に整理したことも特筆すべきことである。

(2)第2章 子どもの発達
続いて第2章においては、誕生から就学までの長期的視点を持って子どもの理解を図るため、8つの発達過程区分に沿った子どもの発達の道筋が簡潔に示されている。

(3)第3章 保育の内容
 第3章においては、保育所保育におけるいわゆる「養護」と「教育」それぞれの意義について明確化するとともに、その一体的展開を保育の本質として規定している。また、保育の内容について、どの発達過程区分にも共通する保育の「ねらい」及び「内容」を、「養護」(生命の保持、情緒の安定)と「教育」(健康、人間関係、環境、言葉、表現)の両面から示している。

(4)第4章 保育の計画及び評価
新保育指針では「保育計画の作成」を「保育課程の編成」とし、各保育所のミッションが浮かび上がるもっとも大切なものとして位置づけている。なお、指導計画作成上特に留意すべき事項として、3歳未満児における個別的な計画の作成、障害のある子どもの保育(個別の支援計画の策定など)や小学校との連携などについて規定がなされている。

(5)第5章 健康及び安全
第5章においては、子どもの健康支援、環境及び衛生管理、安全管理のほか、特に食育基本法の施行などを踏まえ、食育の推進に関する事項を強化している。深刻化する子ども虐待や、家庭における子どもの不適切な養育に対する保育所の役割についても示されている。地域の安心・安全が失われつつあり、また、食の安全までもが揺らいできている昨今、リスク・マネジメントやそのための体制整備に関する施設長の責任も記述されている。

(6)第6章 保護者に対する支援
第6章においては、保育所における保護者への支援は保育士等の業務であり、その専門性や保育所の特性を生かした支援の重要性が示されている。そのうえで、保育所における保護者に対する支援の基本原理を7点提示し、「保育所に入所している子どもの保護者に対する支援」と「地域における子育て支援」とを書き分けて、それぞれの留意事項について示している。また、子ども虐待に対しては、通告や要保護児童対策地域協議会等による事例検討を通じた支援などについても記載している。保育所入所児童の保護者支援を明確に打ち出した点が画期的といえる。

(7)第7章 職員の資質向上
職員の資質向上は、初めて独立した章として規定された。保育士等の自己研鑽と研修の必要性、施設長の責務(専門性の向上、研修機会の確保など学びの体制整備、職員の自己啓発援助など)が新たに記載されている。施設長を含めた保育所職員の資質向上は、今後の最重要課題といえる。


3.新幼稚園教育要領の改正内容(中央教育審議会答申より)

(1)改善の基本方針
○ 幼稚園教育については、その課題を踏まえ、近年の子どもの育ちの変化や社会の変化に対応し、発達や学びの連続性及び幼稚園での生活と家庭などでの生活の連続性を確保し、計画的に環境を構成することを通じて、幼児の健やかな成長を促す。

○ 子育ての支援と預かり保育については、その活動の内容や意義を明確化する。また、預かり保育については、幼稚園における教育活動として適切な活動となるようにする。

(2)改善の具体的事項
(発達や学びの連続性を踏まえた幼稚園教育の充実)
①幼稚園教育と小学校教育との円滑な接続
②体験と言葉の重視など子どもや社会の変化に対応した幼稚園教育の充実(子育ての支援と預かり保育の充実)
①平成19年6月の学校教育法の一部改正により、子育ての支援及び地域の実態や保護者の要請等により希望者に対し行う教育活動である預かり保育が位置付けられたことを踏まえ、幼稚園教育要領における位置付けを見直す。
②保護者の子育てについての理解を深め、家庭や地域の教育力の向上を図る観点から、子育ての支援については、相談に応じたり、情報を提供したり、保護者との登園を受け入れたり、保護者同士の交流の機会を提供するなど、保護者や地域の人々に機能や施設を開放するとともに、園内体制の整備に配慮しつつ、関係機関との連携を図り、地域の幼児教育のセンターとしての役割を果たすよう努めることなどについて、教育課程その他の保育内容に関連する事項として位置付けるものとする。
③預かり保育については、幼児の心身の負担に配慮することが必要である。その上で、留意事項を示す。(その他)


4.新保育指針、(新教育要領)の特徴とこれからの課題を考える


(1)保育所、幼稚園の独自性と普遍性
 まず、第一は、保育所の性格について、保育内容面から論議を喚起していることである。新指針においては、保育所は児童福祉施設であると明確に規定している。しかし、「家庭養育の補完」といった狭義の「福祉」の視点を改め、保護者と協働しての子育てという「普遍」性を強調する視点も盛り込まれている。また、保育課程の編成や小学校との連携に代表されるように、幼稚園との近接も意識された内容となっている。

(2)保育所の社会的責任の明確化
まず、保育所が「児童福祉施設」であることを確認し、子どもの最善の利益や親と子の生活を守る重要な社会資源であることを確認している。第二に、保育所の役割について、これまでの「家庭養育の補完」との表現を改め、「家庭との緊密な連携」のもとに行うことを明確にしたことも大きな特徴である。第三に、総則に新たに「保育所の社会的責任」という項目を起こして、子どもの人権に対する配慮と尊重、地域社会との交流や連携、保護者・地域社会に対する保育内容の説明責任、入所する子ども等の個人情報の保護、保護者等からの意見や要望に対する適切な対処(苦情解決)を明記したことも大きな特徴といえる。
 第四に、総則において、保育所の役割を大きく、入所する子どもの保育、入所する子どもの保護者に対する支援、地域の子育て家庭に対する支援の3つに整理したことも重要な視点である。そして、最後に、保育所保育の質の向上について、各種の規定をおいていることがあげられる。すなわち、保育所保育の自己点検・自己評価の大切さ、保護者や地域住民の意見を汲み取った評価とその結果の公表、施設長や保育士の保育の質の向上のための責務などを規定したことが特筆すべきこととして挙げられる。

(3)「受け止める」ことの大切さ
 第三は、総則その他随所において、子どもの思いや保護者の意向、気持ちを「受け止める」ことや「受容」の大切さを主張している点である。筆者は、保育士の保育と保育指導のスキルについて受信型と発信型に分け、以下のように整理している。今後は、特に受信型の保育、保育指導スキルについて体系化が求められている。なお、「受け止める」ことや「受容」は、「受け入れる」ことや「許容」とは異なっている。子どもや保護者の行動の意味や思いをしっかりと受信できて初めて、子どもの発達促進や保護者支援、保護者の理解や協力を得るための発信ができることも肝に銘じておきたい。
図1 保育士の技術
                                       受信
                       受信型保育技術    ・  受信型保育指導技術
     保育・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・保育指導
                       発信型保育技術    ・  発信型保育指導技術
                                       発信
          
 (4)保育所に入所している子どもの保護者に対する支援
第四は、「保育士等の専門性を生かした保護者支援」や「保育所に入所している子どもの保護者に対する支援」を明確に打ち出した点が画期的といえる。新指針第6章においては、保育者の保護者支援の原理が7点、明確に示されている。これらは、いわば保育士が行う保護者支援の原理とも重なってくるものである。
今後、特に、まだその専門性が確立していない「保育士の行う児童の保護者に対する保育に関する指導業務」、解説書において「保育指導」業務 と規定された業務の原理や技術の体系化が強く求められてくることになる。この点に関し、筆者らは、別途、試論 を展開しているので、ぜひ参考にしていただきたい。

(5)保育士の資質向上
最後に、保育士の力量を倫理、知識、技術、判断の4点に整理したことも特筆すべきである。保育士の業務は保育と保育指導の2つであり、また、前述したとおりそれぞれに受信型と発信型の2種があると考えられるため、保育士のコンピテンシー(力量)は大きく、4×2×2=16となる。むろん、それぞれ重複もあるが、これを自身に当てはめてみることを通して、得意分野や課題などが見えてくる。
今後、保育士の資質向上や研修体系を考える際には、この16の視点を視野に入れていくことが必要とされる。


5.保育所における質の向上のためのアクションプログラム

 新指針の告示とともに、保育の内容の質を高める観点から「保育所における質の向上のためのアクションプログラム」も通知された。
これは、国(厚生労働省)が今後5年間の間に取り組むべき施策並びに都道府県及び市町村が取り組むことが望まれる施策について取りまとめたものである。
 具体的施策としては、①保育実践の改善・向上、②子どもの健康及び安全の確保、③保育士等の資質・専門性の向上、④保育を支える基盤の強化、の4つの視点から施策目標が定められている。また、施設長の資格要件の明確化や保育士資格やその養成のあり方に関する見直しにも言及がなされている。保育実践に関する調査研究の活性化やそれらのデータベース化なども提言されており、今後の検討に期待したい。

1)保育指導について、解説書は、「子どもの保育の専門性を有する保育士が、保育に関する専門的知識・技術を背景としながら、保護者が支援を求めている子育ての問題や課題に対して、保護者の気持ちを受け止めつつ、安定した親子関係や養育力の向上をめざして行う子どもの養育(保育)に関する相談、助言、行動見本の提示その他の援助業務の総体」と定義している。
これは、私たちの注2の研究に基づいて提示した定義がもとになっている。
2)柏女霊峰・橋本真紀[2008]『保育者の保護者支援―保育指導の原理と技術―』フレーベル館


文献
1)柏女霊峰[2007]「保育所保育指針の改定について(中間報告)を読む」『これからの「保育所保育指針」を考えるために』全国社会福祉協議会
2)柏女霊峰[2008]『子ども家庭福祉サービス供給体制』中央法規
3)柏女霊峰・橋本真紀[2008]『保育者の保護者支援―保育指導の原理と技術』フレーベル館
4)柏女霊峰[2008]「新保育所保育指針を読む」『厚生労働』2008年5月号
5)中央教育審議会[2008]『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)』平成20年1月17日

 


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